マンションの寿命
マンションの購入を検討している方にとって、そのマンションにどれだけの期間住み続けられるかという点は大きな判断材料になります。マンションの寿命というのは、建築時の建材や構造から、管理体制がどれほど行き届いているかなどの要素によって、大きく変わってきます。
今回は気になるマンションの寿命と耐用年数から、長生きするマンションの見分け方、寿命を延ばす方法まで解説していきます。
寿命と耐用年数
マンションにおいて、「寿命」と「耐用年数」という言葉の定義は異なります。ここではそれぞれの言葉の意味と、平均的な年数を解説していきます。
「寿命」と言うと、その建物の安全性や設備、外観を保ったまま住み続けられる年数のことを指します。国土交通省の調査によると、鉄筋コンクリートで建造された建物(RC造)の物理的寿命は約120年、外装仕上げ等のメンテナンスを行えば約150年となっております。しかし、実際の建物の平均寿命は68年です。多くのマンションは適切なメンテナンスを行えば寿命を延ばすことができるのです。どのような修繕が重要となるかについては後ほど詳しく説明いたします。
対して「耐用年数」とは厳密には法定耐用年数のことで、減価償却によって資産価値がなくなるまでの年数のことを指します。つまり、耐用年数というのは建物の価値の寿命のことです。耐用年数は国税庁により定められており、RC造のマンションであれば47年、木造であれば22年とされています。資産価値がなくなるというだけなので、耐用年数を築年数が上回っても安全に住むことができます。
減価償却とは
減価償却とは厳密に言うと、「固定資産の価値は時間とともに下がる」という考え方のことです。分かりやすくマンションの場合であると、耐用年数でちょうど資産価値が0円になるように計算した、毎年の資産価値の減少額が減価償却の額となります。新築時点で資産価値が4700万円のRC造のマンション(耐用年数47年)だと、毎年の減価償却の額は、4700(万円)➗47(年)=100(万円/年)と計算されるわけです。
住宅ローンが組めなくなる?
築年数が耐用年数を上回り、資産価値がゼロになった期間は、一般的に住宅ローンを組むことができません。住宅ローンを組む際、銀行が不動産の抵当権を持ち、万が一貸し倒れになった場合に建物を売却することで取り立てる仕組みになっています。そのため、資産価値がなくなってしまっては売却できないのでローンは組めなくなってしまいます。
寿命がきたらマンションはどうなる?
建物が寿命を迎えたら、安全性や機能性の問題から住み続けることは難しいです。その後のマンションの処置にはどのような選択肢があるのか、ご紹介していきます。
建て替える
寿命を迎えたマンションは、建て替えられることがあります。しかし建て替えのケースはごく稀で、国土交通省の調査によれば、2021年に建て替えられたマンションは全国で9件のみとなっております。少ない理由として、複雑な工程と高額な費用が必要であることがあげられます。
マンションを建て替えるためには、区分所有者の5分の4以上の賛成と、議決権の5分の4以上の賛成が必要であると区分所有法によって定められています。区分所有者とは、マンションの部屋を購入して所有している人のことで、議決権とは部屋の所有数のことです。寿命を迎えたマンションの住民は、高齢者の割合が高いことに加えて、この後説明する高額な建て替え費を負担することに積極的でない人が多く、賛成票が十分に得られないことが多いです。
また、建て替えの費用は基本的に居住者も負担します。既存の修繕積立金で補った上で、不足した費用をさらに居住者が支払う形になるため、反対意見が多くなるのです。また、工事の最中に一時的に別の住まいに引っ越すことになり、引っ越し費用や家賃が追加でかかることになります。建て替えする場合居住者の負担がかなり大きくなってしまいます。
費用を抑えて建て替える方法
近年推奨されていて、成功例もある、建て替え費用を抑える方法があります。それは、建て替え前から戸数を増やしてマンションを新築し、増築した分譲床を販売するという方法です。販売して得た費用を建て替えに当てることで、居住者の負担をできるだけ軽くすることができます。
しかし一つ条件があり、建て替え前のマンションが容積率を余らせていることが必要です。容積率は分かりやすく言うと、その土地に建てられる建物の大きさです。取り壊し前のマンションがその土地に建てられる法的に最大のマンションである場合は、戸数を増やして建て替えることもできないためです。
ディベロッパー等に売却される
寿命を迎えたマンションを、ディベロッパーなどに売却する方法もあります。売却して得た利益を区分所有者に分配して、引っ越しの費用などに当てます。ディベロッパーとは、大手不動産会社などの、会社規模の地主のことを指します。建設会社であるゼネコンとは異なり、ディベロッパーは土地と建物を所有する会社です。
しかし、寿命を迎えた建物を売却する際には、解体費用を売却額から差し引くため、手元に残る金額が少ないというデメリットがあり、反対意見も多いです。
住み続ける
建て替えや売却などの対処を行わず、寿命が過ぎてもそのまま住み続ける場合もあります。築年数の経った建物は高齢者の割合が大きく、引っ越しや建て替えという手段は負担が大きいです。それに加えて先に述べた居住者の負担を減らして建て替えする方法が取れない場合、金銭面の問題も生じてきます。多少の不具合があっても、住み慣れたマンションにそのまま住み続けたいと言う方は少なくありません。
しかし、寿命を過ぎたマンションに住み続けるデメリットは様々なものがあります。まず第一に、設備面での不具合です。配管につまりが多発し下水が流れなくなったり、コンクリートの劣化から保湿性の低下や雨漏りが生じやすくなります。これらの不具合に対処するための管理費は、建物の築年数を経るごとに高額になっていくので、寿命を迎えたマンションの管理や修繕は金銭的負担が大きいというのも問題の一つです。これらの問題に対処するために入居者の修繕費負担を重くすることで、空室率が増加してスラム化してしまうと、一気に建物の老朽化が進みます。マンションの管理というものは管理組合だけで行えるものではなく入居者ありきのものです。空室率が増加し入居者からの協力が手薄になれば修繕費を賄えず、マンションの劣化に対応できなくなってしまいます。寿命を過ぎたマンションに住み続ける選択を取る場合、管理を怠らないことに加えて出口戦略も固めていく必要性があります。
寿命の長いマンション
マンションには、寿命を左右する要素が何点かあります。新たにマンションを購入する際はこれらの点を考慮して安心して、長年安心して住み続けられるマンションを選択できるようになりましょう。
建材
建物の骨組みや配管に使われている建材の質や種類によって、建物の寿命は変わってきます。
コンクリートであれば、質の悪いものであれば30年ほどで劣化してしまうものもあり、100年ほどもつ良質なものもあります。コンクリートの劣化の原因は、水分や塩害、風化などがあります。しっかりと防水材をコーティングしてあるコンクリートであれば、天敵である水分に強く長持ちします。
また、建物の寿命には給排水管の材質も関わってきます。給排水管は、メッキ加工の金属管よりも塩化ビニル製のものが錆びにくく長持ちする性質があります。
立地条件
マンションの立地における気候などの周辺環境も寿命に大きく関わってきます。海に近い地域では塩害によってサビが発生しやすく、日当たりの悪い場所であればカビの恐れも強まります。交通の便や地価も物件選びには重要な項目ですが、長く安心して住めるマンションを選ぶためには、周辺環境に関しても考慮する必要があります。
耐震基準
地震大国である日本において、建物の寿命を考える際重要な項目となってくるのが耐震性能です。日本では建物を建築する際、耐震性能において満たさなければいけない基準が定められています。それが耐震基準です。1981年の建築基準法の改正によって、「震度5程度の中程度の地震で大きな損傷を受けないこと」を基準とした旧耐震基準から、「中地震で軽度なひび割れにとどまり、震度6程度の大地震で倒壊や損傷を受けないこと」を基準とした新耐震基準へと変わりました。2000年にも地盤調査の厳密化や耐力壁の設置を定めた「新・新耐震基準」が設けられるなど、建物を設計する際の満たすべき基準として重要視されています。
特に中古マンションを選ぶ際に注意していただきたいのが、どの時期の耐震基準を基に設計されているかということです。1981年以前に建てられたマンションであれば旧耐震基準を満たしていても震度6以上の大規模な地震に対して耐久性が十分でない場合があります。
マンションの寿命を延ばす方法
マンションの寿命というのは、先に述べた立地や構造によって設計時におおよそが決まっているものですが、築年数を経流に連れて劣化していく部分をメンテナンスすることで寿命を延ばすことができます。現在所有しているマンションや、これから購入する場合に関しても適切な修繕をすることで平均寿命よりも長く住み続けることができます。
長く住み続けるために重要な「大規模修繕」
建物の寿命を大きく左右する要素として、大規模修繕があります。大規模修繕とは、マンションの築年数が経過し、建物自体やその設備の老朽化による劣化や、重大な不具合の発生を防ぐための修繕工事を、計画的にまとめて実施することです。配管や鉄部のサビ、外壁の塗装やタイルの剥がれ、防水加工の劣化など経年劣化の症状は様々であり、マンションに安全な状態で住み続けられるかどうかに大きく関わってきます。これらの問題の発生を防ぐために長期的な修繕計画を練って定期的に大規模修繕を行うことで大幅に建物の寿命を延ばすことができます。
ここからはマンションの寿命という観点において特に重要なメンテナンスの項目について紹介していきます。
配管
給排水管はサビが発生しやすく放置していると生活水の水質劣化や配管の途中で水漏れやつまりが発生してしまいます。配管の平均寿命は40年ほどと言われており、生活に必須であるガスや水道が十分に使えなくなれば住むことができないため、一番重要な修繕項目であると言っていいでしょう。
外壁
建物の外壁の防水加工やタイル、塗装のメンテナンスも重要な要素の一つです。雨風に一番晒される部分であり、建材の質や気候などの外的要因によって建物ごとに外壁の寿命というのは異なるため、大規模修繕の周期を調整しなければいけないという点も考慮すべきです。
外壁の塗装やタイルが剥がれると、そこからサビやひび割れが発生します。侵食が進むとそこから水漏れが発生し、建物の骨組みや共有部分に影響がでる恐れがあるため、必ず10〜15年を目安に修繕工事を行いましょう。
耐震改修工事
耐震性能を上げる工事も建物の寿命を延ばす方法の一つです。厳密に言えば耐震性の向上を目的とした工事になるため修繕工事には含まれませんが、先にも述べた通り旧耐震基準に基づいて建設されたマンションなどは、大規模な地震に耐えうる構造になっていない場合が多いため、現行の耐震基準に近づける耐震改修工事を行うことを推奨します。
長く安心して住めるマンションを
マンションを購入するという機会は人生にそう何度も訪れるものではありません。せっかく購入したマンションが10年や20年で住めなくなってしまうということも珍しくないです。いざ住み始めてから問題が発覚するようなことがないように、初めて購入する際でもしっかりとした知識を備えて選ぶことをオススメします。