建物診断とは
建物診断(または建物調査診断)とは建物の状態を把握するために行われる調査で、調査員が目視や触診、機械調査で劣化の状態を細かく確認していきます。大規模修繕を行う際に、修繕箇所の優先度を決定するためのものです。
また、大規模修繕工事の準備の一環として建物診断を実施するマンションも多いため、工事前に管理会社から提案を受けて実施するケースも多いようです。その他、建築事務所、施工会社などを通じて行う場合もあります。
建物調査の目的
まず、そもそも建物修繕にはどのような目的があるのかについて解説していきます。
劣化状況の把握
建物診断の主な目的は、マンションの劣化状況を把握することです。外壁の塗装やタイルなど外観面、エレベーターや駐車場などの共有部分、建物の骨組みや防水、耐震性の劣化の具合を把握して、不具合がないか確認します。外観の面では劣化状況が明らかでわかりやすいですが、骨組みの鉄筋の錆びや防水が劣化していても日々の点検業務だけでは把握できない部分があるため、長期修繕計画に則って大規模修繕工事の前などのタイミングで本格的に調査します。
修繕計画の検討
建物診断の結果によって、修繕工事の緊急度や修繕箇所を検討します。明らかな劣化が見られる箇所は修繕しますし、劣化が見られない箇所に関しての修繕工事を見直すこともあります。
しかし、建物診断によって大規模修繕工事の内容が大幅に追加されるというケースは珍しく、基本的には長期修繕計画の通りに時期や工事内容を進行することが多いです。建物の材質や立地などで、建物の耐久性、気候や温度の特徴が把握でき、どの程度の周期で劣化が進行して修繕が必要になるかがあらかじめ予測できるため、それを元に長期修繕計画を組むというのが一点です。もう一つの理由としては、建物診断の後の施工会社からの工事見積もりがあまり変更されることがないからです。これについては後ほど解説します。
長期修繕計画の設計
建物診断で建物の劣化状況や不具合を把握することで、直近の大規模修繕からの期間を元にどれくらいの周期で修繕工事を行うべきかが判断できます。大規模修繕は一般的に10〜15年周期で行うことが推奨されていますが、これはあくまで基準であり、建物によって必要な修繕工事の頻度は変わってきます。また、修繕積立金の設定額も管理組合によって異なるため、見積もりの額と照らし合わせて居住者や組合員の負担が大きくならないように長期修繕計画を練り直す良い機会になります。
調査方法と調査項目
建物診断では、外壁やタイルなど目視で確認できる範囲から、骨組みや配管の中など目視での確認が難しい部分の調査も行います。ここでは最低限把握しておくべき調査の対象となる項目に加えて、項目によって異なる調査方法も解説していきます。
共有部分の調査
居住者の方々が生活で利用する共有部分(手すり、廊下、バルコニー等)の劣化状況を診断します。竣工図面や過去の修繕履歴を確認して建物の構造と劣化が発生しやすい部分を把握する予備調査の後、実際に共有部分に調査員が立ち入り目視で確認します。また、共有部分は日頃居住者が利用している部分であり、不具合や劣化を感じる部分についてアンケート調査をとる場合もあります。専門家が見落としがちな、日常生活で感じる問題点があれば、調査報告に組み込まれます。
外壁調査
外壁の塗装や接着の劣化状況を調査します。調査方法として、目視、打診、赤外線調査があります。外壁調査の流れとしては、まず目視や打診棒と呼ばれる器具でタイルを叩いて、確認できる範囲の外壁に関して塗料が剥がれていないか、タイルの接着が剥がれていないかを確認します。ここで問題のなかった部分に関して、詳細を調査するために専門器具を用いて接着強度を調査します。タイルをアタッチメントを用いて引っ張る作業を行う方法などがあります。最後に、目視や打診が困難な箇所の外壁に関して、赤外線調査によって劣化状況を診断します。
屋上防水調査
屋上の防水加工の劣化状況を診断します。防水加工には主にアスファルト防水、塗布防水、シート防水などがあり、加工の方法によって調査の方法も変わってきます。具体的には目視や打診調査に加えて、屋上防水に穴を開けて簡易的にボーリング調査を行う方法もあります。穴を開けた部分に塗料を塗布して加工の劣化状況を調べる方法です。また、防水加工の他にも排水溝につまりが発生していないかなど、屋上排水の機能も調査します。
鉄部塗装調査
鉄部とその塗装の劣化状況の調査です。建物の鉄部はさびや剥がれが起きやすく特に劣化が早く、耐用年数が一般的に3〜6年と言われているため、調査を怠ると劣化部分全体の交換作業が必要になってしまいますし、鉄部なので安全性にも関わってきます。調査方法としては、目視や触診と、引っ張り試験などがあります。
建物診断の費用相場
まず建物診断には「無料診断」と「有料診断」の2種類があります。無料診断では費用がかからない代わりに調査の方法が目視調査と打診調査飲みの簡易的な方法に限られます。専門機器を用いて精密に調査する場合は有料診断の形になります。
有料建物診断の費用は建物の規模と診断内容によるので、ここではある程度の相場をご紹介するので参考にしてください。建物の規模を戸数で分類した時に、30戸以下の小規模マンションでは20〜40万円、50〜100戸の中規模マンションでは30〜80万円、それ以上の大規模マンションでは50〜100万円となっています。これはあくまで相場であり、検査項目と精密性によって費用は変わってくるので、実際に予定している建物診断の費用は業者に見積もりを依頼して確認しましょう。
調査の結果は有効活用する
建物調査の目的の部分で少し触れましたが、診断の結果が大規模修繕に影響することはあまりありません。最終的に見積もりは施工会社に出してもらうため、早急に修繕が必要な箇所が新たに発見されて工事内容を追加することはあったとしても、修繕の緊急性が低い部分の修繕を見直すことは、売り上げが下がるため行われないのです。
そのため、無意味な建物診断にならないように、管理組合や修繕委員側から積極的に工事内容にも関わっていくことをおすすめします。修繕の必要性がないと判断できた箇所に関しては、直近の大規模修繕では修繕工事を行わずに後々の修繕計画で検討していくなど、修繕費用を抑えることもできます。一度にまとめて修繕を行うことにもメリットはありますが、基本的に不必要な工事は時間と費用のために削減することをおすすめします。弊社はマンションの資産価値や住民の方々の住みやすさの向上を第一としておりますが、施工会社によっては見積もりの際に調査の建物調査の結果を十分に反映してもらえない場合もあるので、施工会社やコンサルタントに任せっきりの修繕にならないよう、綿密にコミュニケーションを取るようにしておきましょう。