既存不適格とは
古い物件について、「違反建築物」や「既存不適格建築物」と表現されるのを耳にしたことがあるかもしれません。人によっては、相続予定の実家について、親から「この家は昔の基準では問題ないけれど、今は違法建築とか不適格建築とかいう状況らしい」と告げられている人もいるでしょう。将来、自分たちが住む予定がない場合でも、問題はあるのかどうか不安な方もいるでしょう。またマンションのオーナー様にとっては、大規模修繕や改修の際に注意しなければいけない点でもあります。
今回は、「既存不適格建築物」とは何なのかと、「違反建築物」との違いについて解説していきます。
定義
既存不適格建築物に関しての規律は以下の通りです。既存の適法な建築物が法令の改正等により違反建築物とならないよう、新たな規定の施行時又は都市計画変更等による新たな規定の適用時に現に存する又は工事中の建築物については、新たに施行又は適用された規定のうち適合していないものについては適用を除外することとし、原則として、増改築等を実施する機会に当該規定に適合させることとしている。
冒頭にある、「既存の適法な建築物が法令の改正等により違反」となってしまったものが既存不適格建築物です。簡単に言い換えると、法令等が改正されることにより生じる問題で、既に建っている建物のうち、改正後の新しい規定に適合しないものをさします。建物を建てた時点では、法令の規定を満たして建てているのですが、その後の法令などの改正により既存不適格建築物となってしまうのです。
既存不適格建築物の注意点
では、自分の居住、所持する建築物が既存不適格であった場合の注意点について解説していきます。
住み続けて良いのか
既存不適格建築物につき、用途変更や増築をせず、利用し続けることは問題ありません。ただし、古くなって倒壊の危険があったり、不衛生であったりする物件については注意が必要です。
建築基準法10条3項において、都道府県知事などの特定行政庁は、既存不適格建築物であっても、著しく保安上危険であるかまたは著しく衛生上有害であると認める場合には、相当の猶予期限を設けて、所有者等に建築物の除却修繕、使用制限など必要な措置を命ずることができると規定されています。どのような建築物が危険や有害に該当するかは、国土交通省の「既存不適格建築物に係る指導・助言・勧告・是正命令制度に関するガイドライン」が参考になります。
リフォームや修繕の際
例えば建物を建てた後に建ぺい率あるいは容積率の面積制限の数値が変わり、オーバーしてしまっているという状況では、今以上床面積を増やすことは不可能です。このような既存不適格建築物は、増改築や大規模修繕等を伴わないリフォームであれば、オーバーしている面積分を壊さなくともよいのですが、確認申請の必要なリフォームや修繕をする時には、現在の基準に合わせる必要が出てきます。
リフォームや修繕を考える時には、自分の家を建てた後にどういう改正や変更があって、建物のどの部分に関わってくるのか、個別に調べておく必要があります。
既存不適格と違反建築物の違い
既存不適格建築物と違反建築物は何が違うのでしょう。二つの違いは、その建物が建築された時点で合法だったかどうかです。
既存不適格建築物に対し、違反建築物とは、建築当初から法令に適合していない建築物、法令に適合しない増改築工事を行った建築物などをいいます。敷地内に法不適合な状態で立っている建築物の全てが既存不適格に該当するわけではなく、建設時点での建築基準法に違反していた建築物は「違反建築物」として扱われるのです。
違反建築物の措置
命令違反建築物の是正のために行政から受ける可能性があるものとしては、行政指導があります。行政指導を無視したり、これに従わない場合には、建築基準法9条1項に基づき、強制力のある行政処分を受ける可能性が出てきます。さらに、行政処分にも従わない場合には、罰則(刑事罰)を科されることもあるため、適切に対応することが大切です。
このほか、違反建築物については、違反の是正が完了するまでの間、自治体から電気・ガス・水道の各事業者に対して供給の保留が要請される場合もあり、事実上建物を使用することができなくなるおそれもあります。そのため、建物の新築・増改築や建売住宅の購入の際には、その建物が違反建築物となっていないかという点に注意しなければなりません。