費用は把握しておきたい
建物の資産価値を下げないためにも、大規模修繕は十数年ごとに定期的に行う必要がありますが、その費用は数千万円単位になります。同じ戸数でも、階数が多いと仮設足場やゴンドラの費用が高くなりますし、コンサルティングを依頼する際は依頼費が追加でかかります。
所有するマンションの修繕費によって、居住者の月々支払う修繕積立金の金額設定も異なるので、大まかな費用の相場については把握しておきましょう。
この記事では、建物の規模や工事の工程別の費用の相場、コンサルティング依頼費、修繕積立金の相場について紹介する中で、費用を抑える方法や見積もりの際の注意点も解説していきます。
大規模修繕の費用の相場は?
大規模修繕の費用は、基本的にそのマンションの戸数に比例します。
国土交通省の調査(令和3年度実施)によると、大規模修繕の費用の相場で最も一般的なのは、1戸あたり100〜125万円(全体の約30%)であり、次点で75〜100万円、125〜150万円となっております。目安としては1戸あたり100万円と考えておくといいでしょう。
(円グラフ入る)
よって、20戸の小規模なマンションだと2000万円、100戸のタワーマンションだと1億円が修繕費用の相場となっています。
工事の工程別費用相場
1戸あたりの費用の相場をご紹介しましたが、これはあくまで目安であり、工事の内容によってかかる費用は異なります。
大規模修繕の主な工事内容は以下の項目になります。
・外装塗装工事
・防水工事
・給水、水道関連の工事
外装塗装工事の費用相場
外装塗装は、建物の見栄えに直結するので、必ず定期的に行う必要があります。
1㎡あたりの塗装工事の費用の相場は、1,000〜5,000円です。振れ幅が4000円と大きい理由についてはこの後説明しますが、1㎡あたりの費用では実際にイメージしにくいかと思われるので、まずは階数別の塗装費用の目安をまとめておきます。
外装塗装工事の工程としては、足場設置、高圧洗浄、養生等の前処理、塗装という流れになります。階層が高いとそれぞれの工程にかかる手間が増えるため、それだけ費用もかかります。
また、外壁塗装の費用の振れ幅が大きい理由として、塗料によって1㎡あたりの料金が変わってくることが挙げられます。主に使用される塗料の種類は5つあり、アクリル、ウレタン、シリコン、ラジカル、フッ素があります。塗料によってそれぞれ耐用年数や価格、発色等の細かな違いがあります。ここでは、主な塗料5つについて、耐用年数と1㎡あたりの価格をご紹介します。
費用を抑えたい場合は、塗料を安価なもので依頼するという方法がありますが、種類によって耐用年数が短いとメンテナンスの回数が多くなり、長期的に見た時に費用が高くなってしまう場合もあります。また他にも、防水等の性能や、発色等見栄えに関わる部分でもそれぞれ特徴があるため、建物に合った塗料を予算と照らし合わせながら選ぶようにしましょう。
防水工事の費用相場
建物の防水機能は、居住部に雨水や生活水が漏れ出すことを防ぐ他、建物の主要構造部に水が侵食して劣化するのを防ぐ役割も果たすため、建物の寿命を保つために必要です。特に屋上部分の防水機能は重要なので、しっかりと防水工事を行うようにしましょう。
防水工事の費用は工法によって相場が異なります。主な防水工事の工法は、ウレタン防水、シート防水、FRP防水、アスファルト防水の4つです。1㎡あたりの費用の相場は以下の表のようになります。
工法にはそれぞれ、工事の難度や耐久性等に特徴があります。主な4つの工法について特徴を解説していくので、どの方法を採用するか決める参考にしてください。
まず最も一般的であるウレタン防水は、防水層が軽量で建築物に負担がかかりにくいという特徴があります。また細かく区分すると、「ウレタン防水密着工法」と「ウレタン防水通気緩衝工法」の二種類があります。「ウレタン防水密着工法」はコストが安い代わりに5〜8年ごとにメンテナンスが必要です。「ウレタン防水通気緩衝工法」はウレタン防水密着工法に比べてコストは少し高いですが、継ぎ目がなく均一な仕上がりになり、通気緩衝シートが膨れを防止してくれます。
シート防水にも、塩ビ製のものとゴム製のものがあります。塩ビシートは、耐久性と耐摩耗性に優れていて、既存のシートが劣化した時に上から新しいシートを被せる「被せ工法」ができるメリットがありますが、複雑な形状の施工が困難というデメリットがあります。ゴムシートは伸縮性があり塩ビシートに比べ安価ですが、耐久性に少し難点があります。
FRP防水の「FRP」とは繊維強化プラスチックのことを指します。他の工法と比較して費用が高く、施行時に匂いが出るのが難点ですが、強靭で耐久性に優れ、過酷な天候下でも建物を長期的に保護できます。
最後にアスファルト防水についてですが、アスファルトを用いた工法には様々なものがあります。共通した特徴として耐用年数が長い代わりに、トップコートを5〜8年毎に行う必要があります。
建物の防水性能は建物自体の寿命や資産価値に大きく関わるので、工法を選ぶ段階から慎重に業者と相談して施行計画を練りましょう。
給水・水道関連の工事費用相場
給水、排水パイプの耐用年数は約20年で、他の塗装や防水と比べると必要な工事の頻度は少ないです。しかし、手続き等に手間がかかってしまうため、大規模修繕の時期にまとめて行うようにするのがおすすめです。
給水管や水道管の工事費用は、口径が太くなるほど高額になります。そのため実際に口径や長さを調査しなければ費用は把握できませんが、大方の目安だと一棟あたり70〜200万円となっています。
給水管の工事中は給水ホースを設置する必要があり、入居者が水道を使えなくなるので、事前に工事日程を説明しておきましょう。
コンサルタント費用の相場
大規模修繕の際、各種手続きから建物の調査、工事内容等のアドバイスをしてくれるコンサルタントを依頼する方法もあります。設計会社等にコンサルティングを依頼して工事や手続きの管理をしてもらう方法を「設計管理方式」、管理会社や施工会社に全般を依頼する方法を「責任施工方式」と言います。小規模なマンションを除き、多くの場合は設計管理方式が採用されています。というのも、通常の審議事項に加えて大規模修繕の工事内容や予算、時期を管理組合のみで審議するのは難しいからです。
コンサルティングの費用の算出方法については国土交通省によって定められており、コンサルタントの人数、携わった期間などによって積み立て方式で算出されます。基本的な相場ですが、工事費用総額の約5〜10%がコンサルティング依頼費となります。
コンサルティングの報酬には設計費用も含まれるため、公平性のない業者だと劣化診断の結果大規模修繕の必要がないとわかっていても工事を勧められることもあります。コンサルティングを依頼する際は、管理組合の方針と真摯に向き合ってくれる業者を選ぶようにしましょう。
修繕積立金の相場とは?
大規模修繕の費用は、基本的に入居者が毎月負担する修繕積立金によって成り立ちます。修繕積立金の額を決める際は、将来想定している大規模修繕を見越して、予算を立ててそこから逆算して設定します。国土交通省によると、一戸あたりの月々の修繕積立金の相場は約1万2000円です。これは一般的な積立金の相場であり、実際想定している修繕計画によって積立金の額は異なるため、あくまで参考程度に把握しておきましょう。
また、今後修繕積立金の相場は値上がりすると予想されています。というのも、国土交通省の調査によると、「積立金が不足している」と回答した管理組合が34.8%にものぼるためです。修繕積立金について詳しく知りたい方は、積み立ての方式等を詳しく解説した記事があるのでこちらをご覧ください。
大規模修繕の費用を抑える方法や注意点
大規模修繕の費用については、以下の注意点を抑えておきましょう。これらを押さえておくことで、修繕費を抑えることができる他、入居者とのトラブルも未然に防げるようになります。
問題が発生する前に定期的な修繕を心がける
修繕費用は、問題が発生する前に実施することで抑えられます。定期的に防水作用、外壁塗装等の建物の状態を調査することが、修繕費用を抑えるのに最も有効な対策です。物件としても維持管理を徹底していれば、資産価値の向上にも繋がります。
また、配管や防水機能、外壁の塗装が劣化してくることで実際に不満を持つのは入居者の方々です。実際に問題が起きてから修繕計画を練る形になると、費用がかさむだけでなく入居者とのトラブルの原因となってしまいます。安心して暮らせるマンションを目指すためにも、メンテナンスを定期的に行うようにしましょう。
追加費用がかかることがある
修繕費の見積もりの数字は「責任数量」と呼ばれ、実際に修繕を行った際に数量等が見積もり段階を上回っていても、業者は追加請求できないように定められています。しかし、それには例外があります。
外壁タイルなどは、実際に足場を組んでからでないと交換が必要な数量が把握できないため、工事が完了したタイミングで実際の施工料金を追加請求できる仕組みになっています。実際に当初の見積もりから割合として約5%の追加費用が発生することが多いです。
追加で費用請求をされても問題ないように、あらかじめ予備費を設定しておくことをおすすめします。